時計メカニズムに革新をもたらす注目の「CYRUS」が、ついに日本へ本格上陸

文:名畑 政治 / Text: Nabata Masaharu

 異色の経歴を持つ天才時計師ジャン-フランソワ・モジョン氏が開発を指揮するスイスの気鋭ウォッチ・メゾン「CYRUS(サイラス)」が、いよいよ日本市場に本格上陸することが決定。彼らの時計作りの根幹はどこにあり、どうやって大胆な着想を具現化しているのだろうか? 先ごろ来日したモジョン氏の言葉を交えて紹介しよう。

新たなる時計機構の開発に邁進する
気鋭のスイス・ウォッチ・ブランド「CYRUS」

 2010年に創業した気鋭のスイス独立系時計メーカー「CYRUS(サイラス)」。その主任時計師ジャン-フランソワ・モジョンは、マイクロメカニカルエンジニアリングと経済学の学位を持つ異色の時計師である。

 彼は2005年に新しい時計機構の開発や複雑時計のムーブメント製造を行うべく「CHRONODE(クロノード)」社を設立。いくつもの有名メゾンに独創的メカニズムを提供してきたが、現在では「サイラス」のマニュファクチュール部門となり、両社一体となって革新的タイムピースの開発に邁進している。
 その結果、現在は製造されていないモデルも含め7種類、アラームも入れれば8種類の自社開発ムーブメントを保有するに至っている。

 これら多彩な自社製ムーブメントの中でも特に注目が「KLEPCYS DICE LIME CARBON(クレプシス ダイス ライム カーボン)」に搭載の「Cal.CYR718」だ。
「このムーブメントは、どうやったらラトラパンテとは違う構造で、より複雑なものが可能かと考えて生まれました。実はクロノグラフは開発が非常に難しく、難易度はトゥールビヨン以上。なぜならトゥールビヨンは精度を高めるための機能であり、クロノグラフのようにスタート、ストップ、リセットなど、ダイナミックなアクションがありません」(モジョン氏)

 そこで「クレプシス ダイス」では、ベース・ムーブメントにふたつのクロノグラフを統合したモジュールを搭載する方式を採用。つまり、ひとつのモジュールに独立したクロノグラフが存在し、それぞれ干渉しないようになっているのだ。構造は極めて複雑だが、操作はいたってシンプル。ここに世界が驚いたのである。
 この高度な技術と類まれなる開発力を兼備した独立系時計メーカー「サイラス」が、いよいよ本格的に我が国に上陸することが決定。そのお披露目のため、先ごろ来日したモジョン氏はこう語った。

  • 「日本には初めて訪ねましたが、コレクターの方と交流することで、日本人はとても物知りで、市場についても詳しく、要求が高く、時計についての情熱を感じました」  この来日で大いなる刺激を受けたモジョン氏。彼のビジョンが、また次なる名作そして異色作として結実する日も、そう遠くはないはずだ。

     

    Jean-François Mojon
    ジャン-フランソワ モジョン

    1966年スイス生まれ。ヌーシャテル地方の山間部で育ち、マイクロメカニカルエンジニアリングを学ぶと共に経済学の学位を取得。大手時計グループの液晶部門に勤務した後、IWCに移り研究開発部門を牽引した。やがて機械式時計の新たな限界を追求するため、2005年にムーブメント開発会社「クロノード」を設立。著名な時計メゾンの開発と製造を担当。時計にまつわる豊富な知識と経験をベースに、世界を驚かせる革新的なメカニズムの開発に尽力している。

- おすすめモデル -

 

垂直回転の脱進機で高精度を求めた温故知新のトゥールビヨン

  • 「KLEPCYS VERTICAL TOURBILLON(クレプシス ヴァーティカル トゥールビヨン)」は、その名称の通り、垂直(ヴァーティカル)にセットされたトゥールビヨン脱進機を装備する、極めてレアなトゥールビヨン・ウォッチである。

     発想の原点となったのは懐中時計として誕生した当初のトゥールビヨンであるという。すなわちトゥールビヨンとは、ポケットの中で垂直に置かれた状態で長く保持される懐中時計において、脱進機全体を回転させることで重力の影響を分散・平均化させて精度を高めるために初代ブレゲが開発した機構である。そこで「サイラス」の主任時計師であるジャン・フランソワ・モジョンは、トゥールビヨンが垂直に保持された状態を腕時計においても再現すべく、このモデルの独創的な機構が考案したのである。

     そのため文字盤の中央には優美な曲線を描くアーチ状のブリッジがセットされ、これに保持されてトゥールビヨンがタテに回転する。このトゥールビヨンのケージにはアラビア数字の目盛りで秒を表示する機能も併せ持つ。

 そして、この文字盤の左半分にレトログラード方式で時刻を示す時の目盛りが、右半分には同じくレトログラード方式の分の目盛がセットされている。

 さらにこのモデルの大きな特徴はリューズがふたつあること。3時位置のリューズではムーブメントを巻き上げ、9時位置のリューズでは時針を1時間単位で進めることが可能。つまりこれはタイムゾーンをまたいで移動する旅行者に便利な時差修正機能なのである。

 通常のトゥールビヨンであればムーブメントに対して横置きとなるが、このモデルでは文字盤中央にブリッジを設けることで、トゥールビヨンのケージをタテに回転させている。この独自構造によって時分針は文字盤左右にレトログラード方式を採用。ツインバレルにより4日間の長いパワーリザーブを実現し、それが12時位置の球形インジケーターで表示される。

- MODEL DETAIL -

  • KLEPCYS VERTICAL TOURBILLON
    税込 36,300,000円

    品 番 CY539505GGA
    ムーブメント 手巻き トゥールビヨン レトログラード時分
    キャリバー CYR625
    ケース素材 18Kローズゴールド
    ケースサイズ 44mm
    防 水 3気圧
    パワーリザーブ 100時間
    文字盤 ブラックDLC
    ストラップ素材 ブラウンアリゲーター
    限 定 世界38本

 

計時機能に革命をもたらす
世界初の独立ダブル・クロノグラフ

  •  陸上競技などで、ひとりの走者のラップタイム(一定の区間の経過時間)や同時にスタートした複数走者のゴールタイムを測る場合、「ラトラパンテ(スプリットセコンド)」と呼ばれる2本のクロノグラフ秒針を用いた機構が使われてきた。

     しかし2021年に「サイラス」が発表した「KLEPCYS DICE(クレプシス ダイス)」は、時計の左右にセットされたリューズと同軸のプッシャーで独立したふたつのクロノグラフを操作する世界初の機構を実現し革命をもたらした。

     このモデルの発展形が「KLEPCYS DICE LIME CARBON(クレプシス ダイス ライム カーボン)」。グレード5チタン製ケースは「サイラス」共通のクッション型。これに強靭なカーボンファイバー製ベゼルを組み合わせている。

     この新作ではふたつのクロノグラフの表示系統をライムグリーンとイエローで塗り分け、計測結果の読み取りを容易にしている。その操作は極めて簡便。ふたつのクロノグラフには独立したリューズとプッシャーがあり、これによって、それぞれのスタート、ストップ、ゼロリセットを行う。また、3時位置のリューズには巻上げと時刻合わせ機能が搭載されている。

     このモデルでは通常は裏面にあるクロノグラフの操作系統が前面に置かれ、操作の要となるコラムホイールやレバーの動きを観察できる視覚的にダイナミックな仕様が採用されている。

「DICE」とは、「Double Independent Chronograph Evolution(ふたつの独立したクロノグラフによる進化)」の意味。鮮烈なカラーリングでスポーティな味わいを醸し出す。カーボンベゼルには高い輝度を誇る蓄光塗料スーパールミノバが埋め込まれている。

- MODEL DETAIL -

  • KLEPCYS DICE LIME CARBON
    税込 7,480,000円

    品 番 CY539508TCMB
    ムーブメント 自動巻 独立ダブルクロノグラフ
    キャリバー CYR718
    ケース素材 grade5チタン 夜光素材入りカーボンベゼル
    ケースサイズ 42mm
    防 水 10気圧
    パワーリザーブ 55時間
    文字盤 スケルトン
    ストラップ素材 チタンブレスレット
    限 定 世界50本

 

独創機構で読み取り安さを実現した
ユーザーフレンドリーな計器

 新型コロナのパンデミックによって、長い間、国をまたぐ移動が制限されてきたが、その状況が沈静化した現在、世界的な旅行ブームが巻き起こっている。そこで注目されているのが、ふたつ以上の異なる地域の時刻を示すことができるデュアルタイムやGMT、ワールドタイムと呼ばれる機能を持つタイムピースである。

 スイスの気鋭ブランド「サイラス」では、このGMTウォッチにおいて、独創的な機構を開発。それが搭載されるモデルが、この「KLEPCYS GMT OCEAN BLUE(クレプシス GMT オーシャンブルー)」である。

 このモデルでは、ホームタイム(あるいは第2タイムゾーン時刻)を文字盤の内側にセットされたグレーのリングにホワイトの24時間目盛りが刻まれたレトログラード方式で表示。そして旅行先のローカルタイムは通常の時計と同じく、センターから伸びた時分針と文字盤外周のアラビア数字インデックスによって示される。

 この時、ホームタイムは3時位置のリューズで簡単に調整でき、ローカルタイムは9時位置のリューズで操作できる。このようにタイムゾーンごとにリューズが異なるので、確実にご操作を避けることができる。

 複雑な機能を極めてユーザーフレンドリーな形で具現化した「KLEPCYS GMT OCEAN BLUE」それは世界を旅する人にとって信頼できる相棒となる時を示す計器なのである。

 左右のリューズでホームタイムとローカルタイムの個々に調整できるため、ご操作の可能性を限りなく低減することに成功。ケースおよびブレスレットには軽量で非アレルギー性のグレード5のチタンを採用。軽いだけでなく10気圧防水によって、あらゆるシーンでの活動をサポートする。

- MODEL DETAIL -

  • KLEPCYS GMT OCEAN BLUE
    税込 4,290,000円

    品 番 CY539507TTMB
    ムーブメント 自動巻 レトログラードGMT
    キャリバー CYR708
    ケース素材 grade5チタン チタンベゼル
    ケースサイズ 42mm
    防 水 10気圧
    パワーリザーブ 55時間
    文字盤 スケルトン
    ストラップ素材 チタンブレスレット
    限 定 限定38本
文:名畑 政治
Text: Nabata Masaharu


1959年、東京生まれ。80年代半ば、フリーライターとして取材活動を開始。90年代からはカメラ、時計、万年筆、ファッションなどを題材に、メンズ誌・情報誌で取材・執筆。94年から毎年、スイス時計フェア取材を継続中。2009年からは時計専門ウェブマガジン「Gressive」の編集に携わり、2015年、Gressive編集長に就任。著書に「オメガ・ブック」、「セイコー・ブック」、「ブライトリング・ブック」(いずれも徳間書店刊)、「カルティエ時計物語」(共著 小学館刊)などがある。
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