複雑時計のマイスター アントワーヌ・プレジウソ

文:名畑 政治 / Text: Nabata Masaharu

 ジュネーブに生まれ、時計師になるべく宿命づけられたアントワーヌ・プレジウソ。ジュネーブ時計学校を首席で卒業後、大手メゾンでの複雑時計製作に始まり、古典時計の修復や有名ブランドからの依頼による複雑時計開発などを経て、1990年代、ついにプレジウソは独立時計師としてのデビューを果たす。それ以来、高度な技術と豊かな感性に裏打ちされた芸術的な時計作りを実践することで世界的な名声を獲得。現在はいたずらに規模の拡大を追うことなく、真の時計愛好家に向けてファミリーの力を結集することで本物のラグジュアリーなタイムピースを、ひとつひとつ心を込めて開発する。そのプレジウソの足跡と代表作を紹介しよう。

高い技術と豊かな感性で改革を続ける
アントワーヌ・プレジウソの足跡

  •  スイスの独立時計師アントワーヌ・プレジウソは1957年、イタリア移民の両親のもと、ジュネーブで生まれた。時計のケース工場に勤める父の影響で子供のころから時計をおもちゃで遊び、長じては自転車やオートバイなど機械いじりに興味を持ったことでジュネーブ時計学校に入学。すべての過程を誰よりも早く習得し、首席で卒業。1978年、ジュネーブの超有名時計ブランドに就職する。ラインの一つで働くことに疑問を感じ、世界放浪の旅に出る。

     帰国したプレジウソは1980年、ジュネーブのオークションハウス「アンティコルム」で古典時計の修復を担当。あらゆる年代の古典時計の修理をこなすことで独立時計師としてのエスプリ(精神)を得たという。そして時計師としての腕に確信を得た彼は、独立時計師となり、大手ブランドの依頼で複雑時計の製造や組み立てを担当。時間も忘れるほど仕事に没頭し、さらに実力を蓄えていった。
  •  その後、プレジウソは独立時計師の集まりである「AHCI(通称独立時計師アカデミー)に参加し、1996年、バーゼルフェアのAHCIブースで作品を展示。これを契機に日本の代理店も決まり輸出を開始。独立時計師「アントワーヌ・プレジウソ」は、時計ブランドとして成功し、確かな歩みを開始した。

     その後、2000年にはジュネーブ郊外に新たな工房を設けて規模を拡大。さらにレマン湖半に初のブティックを開設し、「複雑時計のマイスター」として広く知られる存在となった。

     現在、アントワーヌ・プレジウソは時計作りのすべてを自らコントロールすべく、あえて規模を縮小し、マネジメント担当の妻メイ、ジュネーブ時計学校卒業後、有名メゾンで複雑時計製作に従事していた優秀な時計師の息子フローリアン、ジュエリーデザイナーの娘ローラというファミリーで工房を運営。最上級の機能と美しいデザインを兼ね備えたタイムピースの製作に勤しんでいる。

 

プレジウソの時計師魂が込められた
唯一無二のトゥールビヨン

  •  その名の通り、「トゥールビヨン オブ トゥールビヨンズ・メテオライト」とは“トゥールビヨンの中のトゥールビヨン”を意味するアントワーヌ・プレジウソの代表作。大型のムーブメントには同時に回転する3つのキャリッジを搭載し、その精密な動きが銀河を巡る星々の動きや惑星とそれを取り巻く衛星の動きを想起させ、我々の好奇心を掻き立ててやまない強烈な存在感を発散する。

     ケースはその銀河を巡る惑星から飛来したメテオライト(隕石)。今でこそメテオライトを文字盤やその一部に採用するブランドは少なくないが、プレジウソはこの希少な素材を30年近く前からケースに採用。大きな一塊のメテオライトのインゴットから切り出されたケースには、独特の結晶構造が見られるが、これは個々のメテオライトに特有のパターンを描き出し、ふたつとして同じものがないというのも、大きな魅力である。

     搭載される自社開発によるムーブメント「Cal.AFP-TTR 3X」は、10分間に1回転するプレート上で、それぞれ1分間に1回転する3つのトゥールビヨン・キャリッジがディファレンシャル機構によって連結され、正確な時を刻むのである。
  • トゥールビヨン オブ トゥールビヨンズ・メテオライト
    税込 140,690,000円

    品 番 AFP-TTR3-ME
    ムーブメント Cal.AFP-TTR-3X 手巻き
    ケース素材 メテオライト(隕石)
    ケースサイズ 45mm
    防 水 3気圧
    パワーリザーブ 約48時間
    文字盤 スケルトン
    ストラップ素材 アリゲーター
    限定数 世界限定1本

 

豊富なバリエーションも魅力な
アートとしてのトゥールビヨン

 “トゥールビヨンの芸術”と命名されたこのモデルは、プレジウソが生み出した独特な形状のトノー型ケースを特徴とし、2002年の発表以来、さまざまなバリエーションを生み出してきたコレクションの根幹をなすアイコニックなモデルである。

 ジュネーブ時計学校の卒業制作時計のころからプレジウソが得意としたハンドエングレービング(手彫りの彫金)をふんだんに施したこの時計の心臓部には、トゥールビヨン・キャリッジが60秒で1回転するスイス製トゥールビヨン・ムーブメント「Cal APG / 28T」を採用。このムーブメントはトゥールビヨンならではの正確さはもちろん、110時間という長いパワーリザーブを備えることで、実用性でも非常に優れたものとなっている。

  • ジ アート オブ トゥールビヨン
    税込 57,970,000円

    品 番 ARTPGO.EN
    ムーブメント Cal.APG / 28T 手巻き
    ケース素材 18Kピンクゴールド
    ケースサイズ 横42✕縦52mm
    防 水 3気圧
    パワーリザーブ 約110時間
    文字盤 スケルトン
    ストラップ素材 アリゲーター
    限定数 世界限定1本

 

トスカーナの旅の記憶を秘めた
プレジウソの原点的タイムピース

  • 「私はイタリアに旅行してシエナのカンポ広場で塔時計に出会った時、頭の中にひとつのアイデアが閃きました。“これを腕時計にしよう!” そして、製作の難しいレース状の針を手作業で試行錯誤の末に完成させ、1986年に腕時計ができたのです。」(アントワーヌ・プレジウソ)そんな鮮烈なエピソードに彩られたアントワーヌ・プレジウソのデビュー作が、この「シエナ」である。

     当初、「シエナ」は広場の時計塔と同じく1本針で製作されたが、現在の復刻モデルでは、実用性を配慮して時分針の2本の針を装備し、時刻の読み取りやすさを向上。ただし、クラシカルなローマ数字インデックスは時計塔の文字盤を忠実に再現したものとなっている。そして文字盤には、光を受けて千変万化の輝きを発散する天然素材マザー・オブ・パールが採用され、このモデルの存在をより一層、印象深いものへと昇華させている。
  • シエナ
    税込 1,782,000円

    品 番 右:SISSM.0402510S/SAD
    左:SISSM.0401510S/SAD
    ムーブメント 自動巻き
    ケース素材 ステンレス・スティール製 ベゼルダイヤモンド(VVS1)
    ケースサイズ 34.5mm
    防 水 3気圧
    パワーリザーブ 約56時間
    文字盤 ホワイト マザー・オブ・パール
    ストラップ素材 アリゲーター(裏側防水加工カーフ)

 

〈アントワーヌ プレジウソ〉New コレクション エキシビション

■場所:松坂屋名古屋店 北館5階
■日時:2024年2月1日(木)→20日(火) 10時~19時
※2月7日(水)→13日(火)の期間はアンテナプラス・ジェムにて開催

復刻版限定の「シエナ」コレクションをはじめ、アントワーヌ プレジウソが丹精込めて制作した「トゥールビヨン オブ トゥールビヨンズ」など数々の逸品を集め、皆様のご来店を心よりお待ち申しあげております。
詳しくはこちら 》

 

文:名畑 政治
Text: Nabata Masaharu


1959年、東京生まれ。80年代半ば、フリーライターとして取材活動を開始。90年代からはカメラ、時計、万年筆、ファッションなどを題材に、メンズ誌・情報誌で取材・執筆。94年から毎年、スイス時計フェア取材を継続中。2009年からは時計専門ウェブマガジン「Gressive」の編集に携わり、2015年、Gressive編集長に就任。著書に「オメガ・ブック」、「セイコー・ブック」、「ブライトリング・ブック」(いずれも徳間書店刊)、「カルティエ時計物語」(共著 小学館刊)などがある。
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