数世紀を越えて継承される
天才時計師ブレゲの技と発明
“時計愛好家が最後にたどり着くブランド”とも言われるのがブレゲである。スイスに生まれ、18世紀のパリで活躍した天才時計師アブラアン-ルイ・ブレゲの精神と発明を今も受け継ぎ、世界最高峰に位置する傑作タイムピースを次々に生み出すブレゲにおいて、やはりその特徴を色濃く反映しているのがトゥールビヨンなのである。
構成・文:名畑政治 / Composition & Text:Masaharu Nabata
ひたすら高い精度を求めて発明された
複雑機構の最高峰。それがトゥールビヨン
「時計の進化を2世紀早めた」といわれるのが18世紀のパリで活躍した天才時計師アブラアン-ルイ・ブレゲである。彼は1747年、スイスに生まれ、時計師としての基礎技術を身につけた後にパリに向かい1775年に工房を設立。やがて宮廷への出入りが許され、国王ルイ16世をはじめとする各国の王族や上流階級の人々に優れた時計を供給するまでとなる。
彼が開発・製作した機構は永久カレンダー、ミニッツリピーター、スプリットセコンド・クロノグラフ、自動巻き、耐振装置など多岐にわたるが、今日の時計技術の基礎の大半がブレゲによって生み出されたといっても過言ではない。
これらのブレゲの発明品の中でも特筆すべきがトゥールビヨンである。
機械式時計には「姿勢差(しせいさ)」がある。たとえば「机に置いたら狂わないのに、スタンドに置くと狂う」ということがある。これが「姿勢差」。つまり、時計は縦に置くか横に置くか、つまり「姿勢」の違いで遅れや進みが生じるのだ。
その原因は重力。機械式時計の時間精度を司るテンプやヒゲゼンマイの作動がその影響を受けて時間の遅れや進みが生じるのだ。
この問題を回避するため、およそ200年前にアブラアン-ルイ・ブレゲが考案したのが「トゥールビヨン」なのである。
その機構は、脱進機と調速機をひとつのケージ(籠)に収納し、それ全体を回転させることで重力の影響を分散するというもの。この機構は構造が複雑なうえ、特に腕時計では微細な部品を組み立てる必要があるため、製造が非常に難しく、最上級の技術を持つ時計師および時計メーカーにしか実現できないメカニズムとなっている。
この複雑機構の頂点に君臨するともいうべきトゥールビヨンの始祖となるブランドにして、今も数多くのトゥールビヨン装備の複雑時計を展開するのが、現代のブレゲなのである。
- 「ブレゲ No.1188」のムーブメントは、巨大なトゥールビヨンのケージを中心として、香箱やフュゼと呼ばれる鎖引きの動力伝達機構を左右対称に配置したシンメトリーな美しさを持っている。なお、このトゥールビヨンのケージは現在の一般的な1分間ではなく、4分間で1回転する。トゥールビヨンの左右にはスモールセコンドと独立停止秒針用の歯車が配置されている。
アブラアン-ルイ・ブレゲ(1747~1823)。時計師としての人生の大半をパリで過ごし、先進的な機構を次々に開発。ブレゲのコレクターであり、「ブレゲの生涯」を著したデビッド・サロモンズ卿は「ブレゲの時計を持つことは、ポケットに天才の頭脳忍ばせているようなもの」という名言を遺している。上はフランス政府が発行したトゥールビヨンについての特許状。1801年6月26日(当時、フランス革命政府によって施行された共和暦では第9年メシドール7日)に特許を取得した。ちなみに「Tourbillon」とはフランス語で「渦巻」「旋風」といった意味。
- 1775年、初代ブレゲが28歳でパリのセーヌ川にあるシテ島「ケ・ド・ロルロージュ」39番地に開いた工房。ここでブレゲは「ペルペチュエル」と呼ばれる自動巻き機構や、無修正で月、曜日、日付を正確に表示する永久カレンダー、時計に内蔵された鐘の音で時刻を知らせるミニッツ・リピーターなど複雑機構を次々に発明し、彼は当代随一の時計師となった。
- 「マリーン トゥールビヨン エクアシオン マルシャント 5887」に搭載されているトゥールビヨンのケージはチタン製で極めて軽量。トゥールビヨン自体の原理は初代ブレゲの発明を継承しているが、素材やそこに投入される技術は常に最新・最先端のものである。
現在、ブレゲは“複雑時計の揺り籠”と言われるスイス・ジュウ渓谷に本社工房を構え、初代ブレゲの確立した精神と技術を継承・発展させることで素晴らしいタイムピースを次々に生み出している。
王室海軍時計師ブレゲを顕彰する
高機能なグランドコンプリケーション
1815年に初代ブレゲがフランス国王ルイ18世から王室海軍時計師の称号を授かった歴史的事実を顕彰して開発されたモデル。ダイアルにはブレゲと海洋の関係性を示す波模様をが刻まれており、ブレゲが発明した重力の影響を分散して精度を高めるトゥールビヨンに加え、暦を自動的に正しく表示する永久カレンダーや、平均太陽時と真太陽時の差を示す「イクエーション・オブ・タイム(均時差)」なども装備する。
また、このモデルに搭載されている永久カレンダーの日付表示は、現代のブレゲが新設計したレトログラード方式のポインターデイト表示が採用されており、日付を示す針は月の終わりに到達すると、その深夜、瞬時に1日に戻って日付表示を再開する。
- サファイアがはめ込まれた裏蓋からは、精緻なエングレービングが施されたムーブメントが見える。そのモチーフとなったのは18世紀の戦艦「ロワイヤル・ルイ」である。なお、自動巻きムーブメントだが、外周部に分銅を持つ「ペリフェラルローター」というシステムにより美しい彫金をつぶさに観察することができる。100m防水機能も併せ持つ。
- 熟練の彫金師の手によって精密な彫金が施される「マリーン トゥールビヨン エクアシオン マルシャント 5887」のブリッジのひとつ。このような気の遠くなるような作業を経て、ひとつの芸術的なグランドコンプリケーションのモデルが誕生する。
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マリーン トゥールビヨン エクアシオン マルシャント 5887
品 番 5887PT/Y2/9WV ケース径 43.9mm ケース厚 11.75mm ケース素材 プラチナ 防水性 100m ストラップ アリゲーター ムーブメント 自動巻き、Cal.581DPE、57石、パワーリザーブ80時間 仕 様 サファイア・ケースバック 価 格 税込 35,002,000円
カレンダーやムーンフェイズを装備する
洗練を極めるメンズ・ウォッチ
「クラシック」と呼ばれるコレクションは、現代のブレゲにあって、その伝統と歴史を色濃く感じさせるスタンダードなモデルを多数ラインナップする。
ここで紹介する「クラシック 7337」は、オフセンター・デザインの個性的なダイアルに、曜日と日付の表示、月の満ち欠けを示すムーンフェイズインジケーターなどを装備する多機能なモデル。そのダイアルには、これもブレゲが得意とするギヨシェ装飾が施されている。ブレゲでは自社内にギヨシェ工房を構え、社内の専従技能者がこの作業を行っている。ただ、このようなギヨシェ装飾は、単なる「装飾(デコレーション)」ではなく、針やダイアルの目盛りを浮き立たせ、目立たせるという効果がある。つまり実用的でありながら、装飾性も兼備するのがギヨシェ装飾なのである。
なお、このモデルには18Kホワイトゴールドケースの他、ローズゴールドケースや異なるギヨシェ模様を施したモデルなど、全部で4種類のバリエーションがある。
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クラシック 7337
品 番 7377BR/12/9VU ケース径 39.0mm ケース厚 9.95mm ケース素材 18Kホワイトゴールド 防水性 30m ストラップ アリゲーター ムーブメント 自動巻き、Cal.502.3 QSE1、35石、パワーリザーブ45時間 仕 様 サファイア・ケースバック 価 格 税込 6,534,000円
ナポリ王妃に捧げられた
華やかなるブレスレット・ウォッチ
1810年、初代ブレゲはナポリ王妃であるナポレオン・ボナパルトの末妹カロリーヌ・ミュラの注文で”腕に着ける時計”を製作したと伝えられている。ただし残念ながら、その時計は現存していないのだが、古い記録をたどると、ミュラのために製作されたブレスレットウォッチ「No.2639」は、”極薄のリピーターウォッチでフォルムは長方形。温度計を備え、髪の毛とゴールドの細糸を縒り合わせたブレスレットに取付けられていた”とある。
2002年、この歴史的な婦人用腕時計を着想の原点とし、ナポリ王妃ミュラへのオマージュとして誕生したレディース・コレクションが、ここで紹介する「クイーン・オブ・ネイプルズ」である。このコレクションには、きらびやかな宝石やマザー・オブ・パールがあしらわれ、ブレゲが得意とする手彫りギヨシェ装飾やエナメル装飾など、高度な技術と高い芸術性を用いて最上級のジュエリーウォッチが次々と生み出されている。
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裏蓋にはサファイアが採用され、美しいギヨシェ彫りが施されたプラチナ製ローターやコート・ド・ジュネーブ仕上げのムーブメントを観察できる。なお、ひげゼンマイやガンギ車にはシリコン素材が採用されている。
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クイーン・オブ・ネイプルズ 8918
品 番 8918BR/2C/364/D00D ケース径 縦36.50✕横28.45mm ケース厚 10.1mm ケース素材 18Kローズゴールド 防水性 30m ストラップ カーフスキン ムーブメント 自動巻き、Cal.537/3、26石、パワーリザーブ45時間 仕 様 サファイア・ケースバック 価 格 税込 5,533,000円